Beatitude
皆さんおはようございます。明日で35歳を迎えてしまうのに大人になれないMATSUです。 毎度お馴染みのこのコーナーではバック・トゥ・ザ・ベーシックという事で、定番のアイウェアからそれにちなんだ文化や歴史を紐解いて紹介していきます。
ここ数年のヴィンテージ眼鏡のブームに火をつけたと言っても過言ではないTart Optical(タート・オプティカル)。
復刻も出たりでなんだかんだ聞いた事があるという人も多いのではないでしょうか。王道になりつつあります。
1948年にアメリカ・ニューヨークで創業されて以来、世代を超えて愛され続けているブランドのひとつです。
昔から時代を象徴するいろんな著名人が着用してて、映画、音楽、政治、文学の世界まで幅広い分野でタートは登場します。
僕も初めはアメリカン・ヴィンテージの黒縁眼鏡を買ったりしていてタートも好きなブランドのひとつなのですが、なぜこのブランドは皆をここまで虜にするのか...。
"デザインが良い"とか"出来が良い"とかもあるかもしれないけど、やっぱりタートは理屈抜きにして昔からイケてる人が着けてるからカッコいい。ただそれだけで魅力があり欲しくなるし着けたくなるものです。
自分に似合う似合わない関係なしに、男なら誰でも一度はジェームス・ディーンみたいに男前な眼鏡男子になってみたくて着けてみたい衝動に駆られた事があるはず。
1930年代までは眼鏡の市場はメタル・フレーム(金属製)が中心だったけど、1940年代の第二次世界大戦後は安価で量産に向いていたセル・フレーム(プラスチック製)が登場。アメリカ国内は様々な眼鏡ブランドが立ち上がりました。
1950年代のトレンドはほとんどセル・フレームと言えるでしょう。様々な資料を調べて見ても著名人はセル・フレームばかり着けている写真が多く、黒色かべっ甲色の二分の人気に分かれています。
タートが創業された1948年のアメリカ・ニューヨークはどんな時代だったのか。
新しいカルチャーも続々生まれ、アンダーグラウンド・シーンでは"ビート・ジェネレーション"が誕生。後に音楽、文学、芸術に多大な影響を与えた世代の登場です。
"ビート・ジェネレーション"とは、第一次世界大戦(1914年-1918年)から1920年代に生まれた世代で、1950年代のカウンター・カルチャーの最先端をいった若者の事を指します。簡単に言ってしまえば不良みたいなもんです。
ビート・ジェネレーションの"beat"の意味は"beatitude"(至福)からきています。鼓動がノッている気持ちや、喜びの表現でもあります。皆は彼らを"ビートニク"と呼びました。
戦後の1950年代のアメリカは経済成長期で、産業も大発展して保守的な中産階級層が拡大しました。学歴社会、機械の様に人間が管理される労働、保守的でステレオタイプな社会...、アメリカはこういった社会が形成されていく時代でもあります。そんな中で眼鏡の中小企業も増えていきます。
1950年代のアメリカの社会に対して幻滅し、不満をおぼえていた若者たちは人生を自ら捨て去り、終わりのない放浪の旅に出る者も多かったのです。いわゆる"バックパッカー"の出現で、こうして"ドロップ・アウト"という言葉も生まれたそうです。
代表作はアレン・ギンズバーグの"Howl and Other Poems"(吠える)や、ジャック・ケルアックの"On the road"(路上)。映画も出てるから面白いのでオススメですよ◎
自分探しの放浪の旅をしたり、気の合う仲間と共同生活をしてみたり、ジャズなどの音楽に合わせてパーカッションを叩いて踊ったりして、ドラッグでの精神の解放によって自分自身の価値や自由を追求しようとしました。(良い子は真似しないでね)
ちなみにタート愛用者のジェームス・ディーンやあのマーロン・ブランドもビートニクの1人。
1950年代の社会体制や価値観を否定し反抗したビートニクたちは、"自分らしさ"を取り戻す為に自分の思い思いの言葉を詩や物語にしました。それを聴衆の前で朗読する"ポエトリー・リーディング"という文化活動を行っていき、多くの若者達から熱狂的な支持を得ていきます。ビートニクの思想は多くのミュージシャンやヒッピーをはじめ、ニュー・レフトと呼ばれる左翼系の政治活動家たちにも多大な影響を与え、なくてはならない思想・哲学の基準になっていきます。
ボブ・ディランはビートニクの思想にいち早く影響を受けたミュージシャン。この眼鏡もタートっぽい。
ボブ・ディランからザ・ビートルズ、そしてその後のジミ・ヘンドリックスからヒッピー・カルチャーまで、ビートニクの影響は計り知れないです。
1948年にビート・ジェネレーションと同じ年代に始まったタートは、戦後に多くの眼鏡の中小企業が増える中で、もしかしたらビートニクの精神を持ち合わせ、他にはない自分らしさを追求して眼鏡作りをしていたんじゃないかなって勝手に考えてます。
そんな時代に創業し、生み出したデザインだからこそ、タートは時代を経ても多くの芸術家や文化人に支持される普遍的なものになったのかもしれません。
SOLAKZADE
MATSU